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塾は「受験のゴール」から「社会という海へ送り出す本流」へ──株式会社ウィザス・堀川氏が考える塾の未来

堀川 直人 氏
株式会社ウィザス 上席執行役員
塾は「受験のゴール」から「社会という海へ送り出す本流」へ──株式会社ウィザス・堀川氏が考える塾の未来

堀川直人さんは、株式会社ウィザスの上席執行役員。関西を中心に約50年を数える第一ゼミナールなどを擁する総合教育グループで、学習塾事業を率いています。 

子どもを大学受験という通過点まで導き、社会という海へ送り出す。その流れをつくることが塾の仕事だと考えています。 

もともとは、20代でデジタル教育に可能性を感じて株式会社SRJを起業。ICT教材を携えて47都道府県を一人で回ってきた起業家でもあります。いま力を注ぐのは、集団指導でも個別指導でもない「自立学習」への転換です。 

その教育観を、過去・現在・未来の3つの時間軸で伺いました。

 

塾の家庭に育ち、「もっと広い教育」を志した 

━━塾の世界に入った経緯を教えてください。 

家庭環境も大きかったと思います。もともと私自身も、第一ゼミナールに生徒として通っていて、大学生になってからは講師としてアルバイトをしていました。 

その後、社会人を2年ほど経験して戻ってきたのですが、塾の仕事にやりがいを感じながらも、もっと広い教育に関わりたいという気持ちがありました。 

当時はちょうど、ICTやデジタル教育という言葉が、ようやく言われ始めた頃でした。教育とデジタルを使って、新しいことをしたい。そう思って立ち上げたのが、株式会社SRJです。 

━━新しいことに挑戦するのが、お好きなんですね。 

そうですね。塾は一つの地域に深く根ざす仕事ですが、私はどちらかというと、全国を広く回って新しいことに挑戦する方が向いていると思っていました。 

 

地域の教育格差をなくしたくて、47都道府県を回った 

━━SRJでは、どんなことに取り組まれたのですか。 

速読や能力開発、基礎学力といった、力の本質的なところを育てるeラーニング教材です。 

日本の地域ごとの教育格差をなくしたい、人手が足りない塾の一助になればという思いもあって、もう何周したかわからないくらい(笑)、全国を回りましたね。 

━━最初はご自身で営業に取り組まれていたのですね。 

はい、トップセールスで。近くのユーザーさんを訪問したら、ついでにあちらの塾もご訪問させていただくという感じで(笑)。計画性もなく、飛び回っていました。最初の10年くらいは、ずっとそんな調子です。 

おかげで、47都道府県すべてにユーザーができました。 

 

同じ教材、同じ宿題。なのに、なぜ成績差がつくのか

━━「自立学習」に取り組むようになったのは、なぜですか。 

集団形式で授業をしているとき、同じ授業を受けて、同じ教材を使って、同じように宿題をやっているのに、なぜこんなに成績の差が開くのか。ずっと不思議でした。 

もしかしたら、学力よりももっと本質的な部分が違うのかもしれない。だとすれば、紙であれデジタルであれ、子どもが自分の力で学ぶスタイルが必要なんじゃないか。そんなことを、ぼんやりと感じていました。 

それをどう形にするか。長く考えてきたテーマでした。 

 

「自立」は「自律」。習慣が、やる気を連れてくる 

━━自立学習の特徴は、どんなところにありますか。 

自立の「立」は、自らを律する「律」だと思っています。 

個別指導はどうしても、先生が「今日はこれとこれをやろうね」と引っ張る、受動的なスタイルになりがちです。そうではなく、まず自分で目標を立てて、今日やる学習を自分で考えさせる。 

子どもたちは、その日その日でやる気にムラがあります。でも自分で学ぶ自立学習のスタイルだと、やる気を出してから勉強するのではなく、まず習慣にすることで、自然と気持ちが高まっていくんです。 

━━やる気が先ではなく、習慣が先なんですね。 

実はそうなんですよね。 

「我々が変えた」のではなく、「生徒が変わった」 

━━集団指導から切り替えるのは、大変だったのではないですか。 

正直、簡単ではありませんでした。これまでのウィザスのやり方や、教室長一人ひとりのキャリア、そうした固定観念のようなものがありましたから。マニュアル通りにやればいい、というスタイルではないんです。 

ただ、変えたのは私たちというよりも、生徒が変わっていったことに対して、我々も変わらないといけない、という順番でした。 

最初は合う子も合わない子もいました。でも、これまでの集団指導にはない、一生懸命に取り組む姿が見えてきて。結果として成績も伴ってきた。その様子を見て、私たちもこれはいける、と手応えを感じました。 

現実的な事情もあります。かつては200名、300名いた教室が、いまはどこも100名、もしくは100名を切るようになり、集団指導そのものが成立しづらくなってきました。だからまず、生徒数が少なくなった教室から変えていったんです。 

 

一教室から10名、全員合格━━「鶴見の奇跡」 

━━やってよかったと感じるのは、どんなときですか。 

自立学習スタイルに取り組む鶴見校で、大阪の難関校である文理学科に、一つの教室から10名が合格できたんです。しかも全員合格です! 

社内では「鶴見の奇跡」と言われるくらいでした。地域には強豪の集団塾もあって、規模で正面から張り合うのは難しいなかでの結果でしたから、かなり手応えを感じましたね。 

こうした事例が、ここ1年で鶴見だけでなく各地に増えてきました。よし、もう少し広げようか、という気持ちになってきているところです。 

 

自立の手前にいる子へ━━「個別指導まなび」というもう一つの入り口

━━「個別指導まなび」も、グループに加わったそうですね。 

はい。「個別指導まなび」は、自立するもっと手前の子どもたちが対象です。そもそも勉強の習慣がない、勉強が嫌いという子に、学生講師が伴走者として横について、一緒に頑張ろう、というスタイルの学習塾です。 

これまでのウィザスは、どちらかというと中上位の層を対象にしてきました。「個別指導まなび」は、本当に勉強に困っている子に手を差し伸べるという考え方で、4年前にグループに入りました。 

20坪ほどのコンパクトな教室を、できるだけ近くに、近くにと出していきます。やる気がまだ高くない子は、少し遠いだけで通いたくなくなりますから。入り口は個別指導でも、そこから自分の力で学べる空間へとつないでいきます。 

━━この時代に教室を増やすのは、これならいけるという勝算があると… 

はい、残存者利益、という考え方があります。子どもが減っても、競合がそれ以上に減れば、一教室あたりの生徒数は保てる。ここからは、我慢比べの局面だと思っています。 

 

いちばんの変化は、AI 

━━この数年で、いちばん変化を感じるのは何ですか。 

少子化もAIも、採用難も物価上昇も、すべて変化を感じますね。特にここ数か月、物価高が急速に進んで、ご家庭の財布の紐が固くなっているのを実感します。 

賃金も採用コストも上がっていく。資本力のある大手が生き残り、寡占化がさらに進んでいくと感じています。 

そのなかでも、いちばん向き合うべきはAIです。教材だけでなく、現場や運営、マーケティング、バックオフィスまで、AIを活用していかないと、コストの上昇に対応できません。属人的な経営から、いかに脱け出すか。 

ただ、すべてがそれで解決するわけではありません。AIにできないことは、人の力でしっかりやっていく。そこは変わらないと思っています。 

 

本分・本気・本流━━塾は「川」、社会は「海」 

━━今年のスローガンが「本分・本気・本流」だそうですね。 

「本分」は、塾という民間教育が何をすべきか、ということです。成績向上と、成長実感。この二つを本分としています。 

「本気」は、教室長だけでなく、講師もスタッフも、教室全体で本気になるということ。 

そして「本流」です。私たちの仕事は、川の流れのようなものだと思っています。川が社会という海につながっていくように、小学生からお預かりして、中学、高校と、子どもを「海」へ送り出していく。 

━━海に送り出すというのは? 

これまでのゴールは中学受験や高校受験でしたが、社会という海に送り出すということを考えたときに、やはり目指すべきは大学受験なんです。受験はゴールではなく、通過点です。将来を見据えて、そこまで寄り添い抜く教育を、我々は全員で目指していきたいと思っています。 

その幹になるのは、やはり「自立できる子ども」です。自立をベースに個別、オンライン、通信制と子どもたちの選択肢の枝を伸ばして、それぞれの花を咲かせる。自立学習は、その本流の核を担うものだと考えています。 

 

10年後も選ばれ続けるために━━最後は、人 

 

━━10年後も選ばれ続ける塾は、どんな塾でしょうか。 

これは本当に難しい問いですね。今年の出生数は67万人ほどです。この子たちが小学4年生になる頃には、子どもの数は単純に3分の1ほど減ります。さきほど残存者利益という話をしましたが、10年後はこれだけではとても生き残れません。 

だからこそ、お預かりした生徒に、いかに長く寄り添い抜けるか。コースを揃えるだけでなく、選んでもらえる独自の価値や魅力を磨いていくしかないと考えています。 

━━突き詰めると、何が残るのでしょう。 

最後は、人だと思います。社員も講師も一体となって、本気で子どもたちに寄り添い抜く。その姿勢を、地道に地域へ発信していくしかないと思っています。 

 

聞き手・執筆:塾ミライ編集部
取材先:株式会社ウィザス
HP:https://www.with-us.co.jp/

3つの問い THREE QUESTIONS

PAST / 過去 創業の原点

「なぜ塾なのか、塾を通して実現したかったこととは?」

なぜ塾を始めたのか。その選択の背景にある志と原体験。

PRESENT / 現在 現在の問題意識

「これからの塾に、本当に必要なものとは?」

少子化・AI・採用難。時代の変化を前線で感じる経営者の視点。

FUTURE / 未来 次世代への志

「今後、塾の役割はどのように変わっていくか?」

10年後、20年後。民間教育が社会に果たす役割の再定義。