塾ミライ|JUKU MIRAI

  • 創業の原点
  • 次世代への志

塾は「知識を届ける場所」から「自分の人生を自分で切り拓く力を手に入れる場所」へ――株式会社KEC Glows・岡本一志社長が考える塾の未来

岡本 一志 氏
株式会社KEC Glows 取締役社長
塾は「知識を届ける場所」から「自分の人生を自分で切り拓く力を手に入れる場所」へ――株式会社KEC Glows・岡本一志社長が考える塾の未来

奈良県生駒市に本社を置く株式会社KEC Glows(旧・株式会社ケーイーシー)は、1977年の創業から約50年。集団指導・個別指導を中心に36教室を展開し、保育園、プログラミング教室、放課後等デイサービスへと事業を広げています。

その舵を取るのは、2017年に新卒で入社し、2025年4月に取締役社長へ就任した岡本一志さん、31歳。「10年・20年先にも続く自信を育てる」という教育コンセプトを、次の10年でどう形にしていくのかを聞きました。

 

「人との出会いが、教育への価値観を変えた 」学生の心のドアが開いた日

━━岡本社長が塾業界を志した原点は何だったのでしょうか。

正直に言うと、最初から『塾業界に行きたい』と思っていたわけではないんです。僕、進学校に通いながらボクシングばっかりやっていて、体も大きいし、坊主頭で。周りからは結構浮いてた人間でした(笑)。

両親は真面目な公務員で、医者か薬剤師になってほしいと言われていたんですけど、僕はそこに反発しつつも、育ててもらった感謝はあったから、『親が納得するところへ』という理由だけで大阪大学の基礎工学部に進学しました。

━━そこからKECへ。何が決め手になったのですか。 

『教育がしたい』という使命感より先に、『人』でした。
インターンのあと、代表の小椋や幹部から旅行に誘ってもらったんですが、そこでの話がもう、ここでは言えないような面白い内容ばかりで(笑)。

社長とか役員とか、いわゆる“偉い人”のはずなのに、何者でもない学生の僕と完全に同じ目線で笑い合っている。それまで正直、人をあまり信じていなかった自分がいたんですけど、その空気に、ふっと心のドアが開いた感覚があったんです。

それに加えて、小椋が本気で語る『教育で日本を変えたい』という壮大な夢物語に、乗ってみたいと思いました。それが原点です。

━━もともと、塾の先生という仕事に憧れはありましたか。 

塾の先生への尊敬もあったんです。学校とはまた違う立場で、子どもたちにさまざまな選択肢や世界の広さを伝えられるのが塾の先生だと思っています。僕も色々な選択肢を教えてもらいました。

当時の僕にとって、両親以外で密に接点を持てる大人が塾の先生だったんです。子どもたちに世界の広さや面白さを伝えられるのは、その子の近くにいる大人たちだと考えています。



「戦力の最大化」と、数字で証明すること

2017年に集団指導部へ配属。講師から教室長、ブロック長を経て教務部へ異動し、中学受験部・高校受験部全体の教務責任者として集団指導部を牽引、またICTの導入も最前線で推進されています。
そして2025年4月、代表の小椋から後継者の指名を受けました。

━━わずか8年で取締役社長に。この規模の塾で、新卒上がりでこの年齢の社長というのは私も聞いたことがありません。ご自身ではどう分析されていますか。 

僕も聞いたことがないです。しかも僕、事業部長をやったことがないんですよ。本当に役職を飛び越えて、社長に抜擢していただきました。

一言で言うと、KECが大好きであるということ。そして、理念を現場で体現し続けた生粋の「KECっ子」だったことですかね(笑)。

KECは、社員の働きがいや、顧客の満足度を重要視しています。理念を深くまで理解し、そして組織に落とし込んでいくことが重要です。

そういった観点で、私は小椋の理想とする組織を理解し、それを自チームで体現してきたからこそ、抜擢されたのではないかと考えています。

━━もうひとつ挙げるとすれば。 

ちゃんと結果で語ってきたということです。あるICTツールを導入したときは、最初の2年間は現場に浸透せず、ただツールを入れただけの状態が続いていました。

でも僕が担当になってから、『人にしかできないこと』と『ツールだからこそできること』を切り分けて、オペレーションに組み込んで“自然を活用される仕組み”をつくった。その結果、中学1・2年生の中間テストで、活用者が非活用者より7〜10点高いという数字が出ました。

理屈だけじゃなく、現場を巻き込んで、数字で証明する。それを積み重ねてきたことが、信頼につながったんだと思います。あとは、言ったことは必ずやりきるという覚悟ですね。有言実行の人はやっぱり信頼できますからね。


受験はゴールではなく手段━━「人間大事の教育」

━━KECの教育の特徴を、はじめましての読者にどう説明されますか。

理念は『人間大事の教育』、教育コンセプトは『10年・20年先にも続く自信を育てる』ことです。僕らにとって受験はゴールじゃなくて、あくまで手段。子どもたちには受験という経験を通して、人間としての成長を実感してほしいと本気で思っています。

だから、詰め込み教育はしません。大事にしているのは、子どもたちに考えさせること。授業も一方通行じゃなく、双方向のコミュニケーションとして設計しています。

━━その土台になっているのが。 

10年ほど前から使っている『ロードマップ』という計画手帳です。PDCAではなく、GPDCAサイクル。このG(ゴール)がとても大事だと思っていて、自分でワクワクする目標を決めて、そこに対してPDCAを回していく。

人に決められたレールって、どうしてもやらされるになるじゃないですか。でも自分で決めたゴールなら、全部自分に返ってくる。

『今30点だけど、次は何点を目指したい?」と先生が問いかけて、本人が「50点を取りたい」と決める。そこから「じゃあ、そのために何をしようか」と一緒に考えていく。

実際に行動して50点が取れたら、「やれば自分もできる」と思える。その小さな成功体験の積み重ねが、一生ブレない本物の自信になると思っているんです。


学生講師の8割以上が、KECの卒業生

━━選ばれている理由は、どこにあるとお考えですか。 

一言でまとめるなら、『勉強を教える塾』じゃなくて『人を育てる場所』として認識してもらえているからだと思います。

講師との距離がめちゃくちゃ近いんですよ。実際、学生講師の8割以上がKECの卒業生なんです。『KECの先生が好きやから勉強が好きになった』『将来KECで働きたい』と言ってくれる子が多くて、卒業後もふらっと教室に顔を出しに来る。これは狙って作れるものじゃなくて、うちの文化そのものだと思っています。

━━その文化は、どんな仕掛けから生まれているのでしょう。 

一つは、個人ではなく『チームで目標を追う』設計にしていることです。イベントも個人対抗ではなく教室対抗にして、『自分が1位になりたい』ではなく、『みんなで1位を取りたい』と思える環境をつくっています。

受験でも同じで、同じ志望校を目指していれば普通はライバルになり得ます。でも僕らは、『みんなで受かろうぜ』という空気を大事にしています。

合宿の『限界チャレンジ』でも、18教室対抗で基礎学力を競います。すると、勉強が得意な子が苦手な子に教え始めたり、『授業が9時からなら30分前に来てやろうぜ』と声を掛け合ったりする。

こちらが『助け合いなさい』と教えなくても、共通の目標をつくることで、子どもたち自身から助け合う行動が生まれる。そういう環境を意図的につくることが、KECの文化につながっていると思います。

もう一つ、講師自身が何事にも本気で取り組む姿を見せることも大切にしています。

例えばハロウィンには講師が本気で仮装して授業をします。勉強だけでなく、遊びにも全力で向き合う。その姿勢そのものが、KECらしい文化をつくっていると思います。 

▼「教育で世界を変える」KEC Glows様の ビジョン


講師採用難とAI━━この2、3年で起きたこと

━━ここ2、3年で特に実感されている環境変化はありますか。 

一番肌で感じているのは、講師採用の難しさです。少子化で生徒数自体が縮小する一方、学生講師の労働市場は他業種との取り合いが激しくなっている。以前なら『教えることが好き』という気持ちだけで来てくれた学生も、今は待遇や働き方の柔軟性をシビアに見ています。

もう一つはAIの進化のスピードです。生成AIが登場したことで、『知識を教える』という塾の機能そのものの価値が問い直される時代になりました。

答えを教えることには、もうAIのほうが速くて正確な場面すら出てきている。だからこそ、『なぜ人が教えるのか』『塾でしか得られない体験は何か』を、これまで以上に突き詰めて言語化しないといけないと感じています。

子どもたちの側で言えば、学び方が変わりすぎた。集団一択だったところに個別が出て、家庭教師、映像授業、LMSを使った自立型、YouTube、AIと、バンバン増えてきた。子どもの数は減っているのに、学びの選択肢は増えている。だからこそ、塾として何を提供するのかが、これまで以上に問われていると思います。

━━保護者が塾に求めるものにも、変化を感じますか。 

明らかに変わってきています。以前は『成績を上げてくれること』『志望校に合格させてくれること』が、求められる価値のほぼすべてでした。もちろん今もそれは大前提としてありますが、それに加えて『うちの子の人間的な成長に、本気で向き合ってくれるか』を見られていると感じます。

情報があふれる時代だからこそ、保護者自身が『何が正しい教育なのか』を判断しづらくなっている。だから、成績という数字だけでなく、『子どもがどんな表情で塾に通っているか』『主体的に考える力がついているか』といった、目に見えにくい部分への説明責任を、塾側がより丁寧に果たす必要が出てきていると思います。

保護者の方々が本当に願うことはきっと、我が子の点数が上がったことを喜ぶのではなく、点数が上がって喜ぶ我が子の笑顔が見たい。だと思うんですよね。


AIは「置き換える」ためではなく、時間を再配分するために

━━今後の塾経営で、脅威に感じている変化は。 

一番の脅威は、『講師との距離の近さ』というKECの強みが、採用難と省人化の波の中で薄まってしまうことです。効率化を急ぐあまり、人と人との関わりを削ってしまったら、それはもうKECじゃなくなってしまう。

人材採用が厳しくなって単価も上がるので、利益率を改善するために一人で40人見られる自立型の塾をつくりましょう、という発想になる。

それ自体は間違っていないんですけど、設計だけで走るとKECらしさがなくなる。人材難だから映像に全部切り替えよう、AIに頼ろうという発想になるのは、とても怖いです。やはり人と人との関わりをベースに考えていかなければと感じています。

━━そこに対して、取り組まれていることは。 

二つあります。一つは、AIやICTツールを『講師の代替』ではなく『講師にしかできないことへ時間を再配分するための道具』として位置づけ直すこと。

たとえば個別支援計画の作成のような事務作業をAIで効率化して、浮いた時間を生徒と向き合う時間に回す、といった取り組みを実際に進めています。

授業でも同じです。導入の説明はもう動画に投げてしまおう、と。その代わり、これまで以上に、解き直しの仕方を指導するとか、解説の読み方を教えるとか、そこを人間力でちゃんとやっていこう、と切り分けています。

もう一つは、評価制度や採用の仕組みを本気で見直すこと。現状の課題からも目を逸らさずに整理して、優秀な人材が正当に報われ、長く働きたいと思える組織にする。人が集まらなければ、どんな理念も絵に描いた餅になってしまいますから。

━━では、AIには代替できない、「人だからこそ」生徒に提供できる価値とは何でしょうか。 

一番はモチベーション、そしてコーチですね。1対4の教室でも、手が止まる生徒もいれば、どんどん進められる生徒もいる。全員に同じやり方を当てはめるのではなく、その子に合わせて関わり方を変えながら、最終的には一人で勉強できる状態を目指します。

『最初は先生と一緒にやってみよう』『じゃあこのページは自分でやってごらん』『今度は家でやってきてごらん』というように、少しずつ伴走の仕方を変えていくんです。その子が自分で前に進めるように支えるのは、やっぱり人にしかできないと考えています。



10年後、塾は「人間形成に伴走するコミュニティ」へ

━━10年後、塾のあり方は大きく変わると思いますか。

大きく変わると思います。『知識を届ける』という機能は、AIやオンライン教材にどんどん代替されていくでしょう。10年後、単に『教科を教える場所』という定義のままの塾は、生き残るのが相当厳しくなっているはずです。

一方で、『人が人に伴走する』という価値は、むしろ相対的に希少になり、価値が上がると思っています。子どもが挫折したとき、頑張りを認めてほしいとき、進路に悩んだとき。そこに本気で向き合ってくれる大人がいるかどうか。

塾は『教科指導の場』から『人間形成に伴走するコミュニティ』へと、その存在意義の重心が移っていくと考えています。

━━学びの中身も変わりますか。 

変わると思います。年号などを単純に暗記するだけの学びは、これまで以上に価値が薄れていく。そうではなくて、歴史の偉人がどんなことをして、何を思って、どういう結果になったのか。表向きだけじゃなく、裏では何があったのか。そこに自分自身を重ね合わせることが重要になる。

より横断型に、より記述型に。『なぜ織田信長はこうしたのか、あなたの考えを書きなさい』とか。そういう学びなら、歴史上の人物から『じゃあ次は僕たちはどうしよう』と学べるじゃないですか。科目名は変わらなくても、知識を覚えるだけの学びから、自分で考え、問いを立て、探究する学びへとシフトしていくと思っています。

━━そうした「自分で問いを立て、考える学び」につながる取り組みも、すでに始めているそうですね。 

昨年、公立中学校とタッグを組んで、AIを活用した講座を開きました 。ただのAI講座ではないんです。最終ゴールをアプリ制作にした取り組みです 。

自分たちで課題を見つけ、どうすれば解決できるかを考える。その過程でAIを一つの手段として活用することで、これまで自分たちだけでは難しかったことも形にできる。その可能性を実感してほしかったんです。

実際に、生徒たちは自分たちのアイデアをアプリとして形にしていきました。「先生の気分や機嫌を検知するアプリ」など、子どもたちならではの自由で面白い発想が次々に出てきました。

今年取り組んでいるのは、奈良の地域課題です。自分で問いを立て、仮説を立て、AIも活用しながら実態のデータを集め、検証し、さらに問いを深めていく。そうした探究型の学びで、少しでも奈良をはじめ日本の教育に貢献したいという思いでやっています。


選ばれ続ける塾は、仕組みと情熱を両立している

━━今後選ばれ続ける塾と、そうでない塾の違いはどこにあると思いますか。

一言で言うと、『仕組みと情熱を両立できているかどうか』だと思います。
情熱だけがある塾は、優秀な個人の頑張りに依存してしまい、その人がいなくなった瞬間に質が崩れる。属人的な組織は、生徒数が増えれば増えるほど、必ずどこかで限界が来ます。

逆に、仕組みだけを追い求めて効率化に振り切った塾は、マニュアル通りの対応はできても、子どもの心を動かすことができない。生徒や保護者は、そういう“温度のなさ”に敏感に気づきます。

選ばれ続ける塾は、この二つを両立させています。一人ひとりの講師の情熱や個性を殺さずに、それを組織全体で再現可能な形に落とし込む仕組みを持っている。

━━「仕組み」を、実際に形にされているものはありますか。 

今まさに、内定者や若手も交えながら、『熱狂個別』というコンセプトを形にしています。個別指導で“熱狂”って、あまり聞かないじゃないですか(笑)。

これからの時代に必要なのは、自分で考え、自分で学び続ける力です。その意味で、コーチングや自立学習はとても大切です。一方で、効率や利便性だけではなく、『この先生と一緒に頑張りたい』『この教室だから、もう一歩挑戦したい』と思えるような、人との関わりから生まれるエネルギーも大切にしたいと思っています。

目の前の成績だけではなく、その先にも続く自信や学ぶ力を育てていく。費用が安いから、動画だけで十分だから、ではなくて、自立を促しながら、人との関わりによって前向きな熱量が生まれる。そんな個別指導を『熱狂個別』として形にしていきたいと挑戦を進めています。

━━逆に、いま一番の課題は。 

今一番の課題は、事業の成長に合わせて、それを支える組織基盤をさらに強くしていくことです 。教室数が増え、事業領域が集団指導・個別指導・保育園・プログラミング教室・放課後等デイサービスと広がっていく中で、 これまで以上に組織として教育の質を安定して届けられる仕組みが必要になっています。優れた講師が一人いるだけでは、50拠点以上の現場すべてに同じ教育の質は届けられない。

だからこそ今、社長として一番力を入れているのが『仕組みで動かす経営』へのさらなる進化です。評価制度をきちんと整備し、幹部一人ひとりが自分の言葉で目標にコミットし、それを組織として追いかけていく体制を作っています。

ただ、仕組み化や効率化だけを目的にはしたくありません。KECが大切にしてきた、一人ひとりに向き合う姿勢や、人と人との関わりの温度感、 仕組みと情熱、両方を本気で両立させることを、これからも大事にしていきたいです。


「自分の人生を自分で切り拓く力を手に入れる場所」

━━最後に。これからの塾とは、何のための場所でしょうか。

一言で表すと、『子どもたちが、自分の人生を自分で切り拓く力を手に入れる場所』です。

受験も勉強も、その力を鍛えるための手段でしかありません。合格や成績は結果であって、目的地じゃない。10年後も変わらず、ここだけは貫きたいと思っています。

━━10年後、KECはどんな塾になっていたいですか。 

『KECの先生に出会えてよかった』と、大人になってからも本気で言ってもらえる塾でありたいです。この文化を、教室数が増えても、時代がどれだけ変わっても、絶対に薄めたくない。

AIやICTをどれだけ取り入れても、最後に子どもの心を動かすのは人だという確信は変わりません。仕組みで組織を強くしながら、人間らしさは失わない。「仕組み」と「情熱」を本気で両立させ続ける塾、企業でありたいです 。

僕は年齢的にもまだ社長としては若いので、一緒にその道を切り拓いてくれる仲間を発掘して、一緒に成長していけたら一番楽しいなと思っています。 

 

聞き手・執筆:塾ミライ編集部
取材先:株式会社KEC Glows(KEC個別)
HP: https://www.kec.gr.jp/kobetsu/ 

3つの問い THREE QUESTIONS

PAST / 過去 創業の原点

「なぜ塾なのか、塾を通して実現したかったこととは?」

なぜ塾を始めたのか。その選択の背景にある志と原体験。

PRESENT / 現在 現在の問題意識

「これからの塾に、本当に必要なものとは?」

少子化・AI・採用難。時代の変化を前線で感じる経営者の視点。

FUTURE / 未来 次世代への志

「今後、塾の役割はどのように変わっていくか?」

10年後、20年後。民間教育が社会に果たす役割の再定義。